book0029
本屋でこの本を見つけたとき、何か「てっぺん」っていい響きだな、と思った。
山登りをしている人は山の一番高い場所を、山頂、頂き、頂上、ピーク、サミット等と呼ぶ。
てっぺんは子どもの頃に使っていた言葉だ。
それでも、単純だがとても純粋な響きがある。

この本は女性で始めてエベレストに登った田部井淳子さんの半生を題材にした小説になっている。
女性だけでヒマラヤを目指すことへの偏見、女性の隊員同士の確執や嫉妬。
様々な出来事は既に別の本でも語られ、またメディアでも色々と話されている。
それらの出来事の点と点が、この作品を読むにつれ線となってつながっていく。

そして、てっぺんはこの作品のキーワードになっている。
登山家淳子の思い描き突き進む夢、初めのうちはそれがてっぺんだと思っていた。
でも、そうではない。
「てっぺん」は、かけがえのないもの。
淳子には山よりも大切なもの。
作品の中の淳子も、そのてっぺんを時に見つめ直している。
私も作品を読みながら、自分のてっぺんを見つめてみた。

てっぺん。
突き抜ける青空のような、この言葉。
この作品を読み終えたときに風を感じた。
突き抜けるその青空を、吹き抜けていった清々しい風。
田部井さんは、清々しい風のように生きた人であった。


出版社のHP